業界の詐欺師たち その1
知る人は知る事実だが、漫画や小説など創作関連の業界は詐欺師がゴロゴロいる。
漫画家や小説家にあこがれる人は多い。
そして、志望者の多くは、この業界がどれほど儲からないかを知らない。
作品一つで億万長者とか、そんな甘い認識で業界を目指してたりするもんなのである。
そこにつけ入る隙がある。というわけで出没するのが、詐欺師である。
詐欺師の典型的な手口は、まずはコミケに行って漫画家や小説家の志望者を見つけるところから始まる。
そして、その作品を徹底的に誉める。
人に褒められることに慣れていない志望者は、だいたいそこでイチコロである。
次に詐欺師は「私はプロの編集者にコネがあるんだ! 売り込みをしてあげるよ!」などといって、連絡先を交換してくる。
そしてあとは、何かと理由をつけてお金をたかるのだ。
今なら、ネットを使って仕掛けてくる詐欺師も大勢いることだろう。
詐欺師の正体はいろいろ。
だいたいは「同人作家にコネがあって、ちょっとだけプロの編集者とも付き合いがある」程度の人である。もちろん、素人を本物のプロにするような権力はない。
カモは、頭の中で想像をたくましくして、詐欺師のことを「自分を認めてくれたプロの大物」ということにしてしまう。詐欺師が何の努力もせずとも、勝手に騙されてくれるわけだ。
稀に「本当のプロの編集者なのに詐欺を働く」という不埒ものもいるし「プロの小説家なのに詐欺を働く」という人もいる。窓際になっちゃった編集者や、2、3冊本を発行したあと打ち切りになっちゃったライトノベル作家が小遣い稼ぎをしてるわけだ。
ターゲットにされる人は、だいたい類型的である。
業界へのあこがれが強くて現実を知らない人。
つまり詐欺師の嘘を見破れない人たち。
そして、実力が比較的低い人たちだ。
詐欺師にしてみれば、引っかけた相手が本当にプロになってしまって、しかも嘘を見破られたなら、復讐される危険がある。そこで、とうていプロにはなれそうにない人が獲物にされるのだ。
誉められた経験に乏しい、自己評価の低い人や、中途半端に実力はあるがプライドも半端に高いという人も狙われやすい。そうした人は、詐欺師の誉め言葉を信じようとする。その信じようとする心が、詐欺師への警戒心を失わせるのだ。
詐欺師の嘘を見破る方法は実に簡単である。具体的な話をしてもらうのだ。
たとえば「過去にあなたがプロにすることができた人は誰ですか?」と聞けばいい。
おそらく、誰の名前も上げられないか、適当にランダムに実在する作家の名前を答えるだろう。あとは、名前が出た作家本人に真偽を問えばいい。
物語の作り方についての話を振るのもいい。
たいがい面白い物語を作る方法を、具体的に答えることができない。せいぜい「真心で描けば読者に通じる」という感じで、精神論をいう程度である。
あるいは、プロになった後の収入がどの程度かと聞けばいい。
現実のプロは、たいがい「ワーキングプア」である。
小説家なら年収180万円とか250万円とか、300万円に到達しない人がほとんど。
漫画家も、アシスタント代が必要になるので連載を持っていたとしても単行本が出ないと厳しい。
詐欺師はターゲットから金を搾り取るために、夢のある話をする。
「プロになれば月収50万円は堅い」とか、平気で大嘘をつくのである。
本気で誰かをプロにしたいと思っている人間なら、最初に厳しい現実を教えるはずである。
覚悟がない人間に、取り返しのつかない人生の選択をさせてはいけないのだから。
こういう辛い通過儀礼を避けるのは、つまり、詐欺師である。
もしも詐欺師を見つけたら?
あるいは、詐欺師に騙されている人を見つけたら?
どう行動するのが正しいか。これはちょっと、考えものだ。(続く)
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