A君の事業は多額の借金を抱えて破たんした。
 なぜかといえば、当たり前である。

 最初からK氏はA君の金を巻き上げることが目的で事業を始めたのだから、この結果は当たり前である。だが、それでも回避方法がなかったわけではない。
 A君が、従業員であるK氏の業務上の出金、入金を必ずチェックしていれば、そうそう不正は通らないはずである。そして、そうするべきだった。
 ところがA君は、事実上、K氏に事業を丸投げしており、必要経費が幾らなのか、粗利が幾らなのか、税金が幾らなのか、最終的な利益がいくらなのか、そうした情報をチェックしていなかった。
 これでは不正のやり放題である。
 どこで金を横流しされても、告訴も何もできない。

 私は、半ば絶縁状態になった時期に、その問題をA君に指摘したことがある。
「君はちゃんと事業の経理をチェックしているのか?」と。
 しかし彼は鼻先で笑って「人を信じることの大切さ」について説教を始める始末だった。
 私の話はまったく信じないのに、自分に都合のいい話は全面的に信じるというのは、ただの怠慢なのだが、彼はついにそのことに気が付かなかった。
 彼が、自分の成功が蜃気楼だと気づいたのは、業務用の銀行口座からお金が消えたあとだった。
 こうして、彼の事業は破綻してしまった。

 これは、あまりにもあり触れていて新聞にも載らないような、ちっぽけな事件だ。
 その結果、一人の漫画家とその周辺の人間が破滅しても、世界の歯車が止まることはない。
 彼は現在、仕事仲間の大半から絶縁されて、それでもなお他にできる仕事もないので、漫画家という仕事にしがみついている。
 これから彼がどうなるのかは、多分、私が気にするべきことではないのだろう。